小豆島は、瀬戸内海に浮かぶ島々の中で、淡路島に継いで2番目に大きな島です。海岸線の延長は125キロあり、およそ3万人の人が住んでいます。年間を通して季候が良く、リゾート地として大勢の観光客を迎える風光明媚な土地です。気候の良さはさまざまな柑橘類や作物の育成にも寄与し、中でも小豆島のオリーブは全国的に有名で、収穫量と品質は日本一を誇ります。また、塩産業から発展した醤油・佃煮・素麺といった地場産業も盛んで、単なる観光だけにとどまらない島の魅力があります。一方、『二十四の瞳』『八日目の蝉』等さまざまな映画やドラマのロケ地に選ばれるなど、町並み或いは景観、人といった要素が、都市にはない離島ならではの独自性を有しています。
しかし、これらの特徴は小豆島のあくまで一側面であり、一部分でしかありません。歴史を更に遡れば、修行の島という根底が見えてきます。この島は、海底火山が隆起してできた島だと言われ、陸地のほとんどは山であり、大部分が火山灰が固まってできた凝灰岩と溶岩石で構成されています。その岩壁は長い年月海風にさらされ、多くの洞窟や崖地を生み出しました。そのような場所は、山岳修行者にとって格好の行場であり、平安時代に山岳修行が盛んだった折、弘法大師空海上人も立ち寄って修行されたと伝えられます。そうした背景から、江戸時代には四国とは異なる独自の八十八ヶ所霊場が興り、現在もお遍路さんが参拝する聖地として遍路文化が息づいています。
小豆島八十八ヶ所霊場は、千有余年の昔、大師が生国の讃岐から京の都へ上京の途次また帰郷の道すがら、したしくこの島にお立寄りになられ、山野を跋歩され御修行ご祈念をつまれた御霊跡である。
史実によると、貞享三年(約300年前)には、この島の八十八ヶ所霊場としての規模、体制が大いに興隆され爾来、興替を重ねつつ今日の盛況に至っている。この大師の霊跡を慕いへんろ行願を志す同行は、年間数万人を超え、関西一円、四国、九州、北陸、中京、北海道等、全国各地方に及び、その信者数は数十万に至っている。
この島の霊場は、祈念と修練の道場である。島とは言え、岳あり、野あり谷がある。そこに点在する霊場にくまなく修行する。遍路とはこのことを言うのであろう、それは消し難い人間の業の深さえの歎息と、業苦からの脱出を霊場に求めた切ない人間の悲願の表現である。
この霊場の全工程は、ほぼ38里(150km)にわたる。八十八の本番霊場に加え、奥の院を含め94ヶ所が公認霊場となっている。寺院霊場30、山岳霊場10余、堂坊50余に分かれる。
初めて巡拝を志す人々のために、周到な案内図、道しるべ、あたたかい島の人情味が応えてくれる。巡拝者は、おへんろさんと呼ばれ、一笠一杖に身を托して大師の御跡を巡らせていただくのである。同行二人の御教の如く、影の形に添う如く、大師は一人一人のおへんろさんに同行して下さるのである。
この島の霊場の特色に山岳の霊場がある。その深玄、清寂、荘厳のたたずまいは、すぐれた風光に恵まれ、まさに悟境に通うものがある。
又、この島は、瀬戸内海国立公園として、比いまれな天与の自然美に恵まれ、珠玉ともいえる風光に富む、霊場はすべてこの美しい天然の中に点在する。幽邃深厳な山峡に、白砂青松の海辺に、ひなびた島の野辺に、行くところ霊場に至らざることはない。この清冽な自然と、尊い霊跡の織りなす霊光は苦悩と昏迷に苦悶し、人生の方途を模索する現代人の修練と求道の道場であり、静穏な安息と平安の浄土であり、祈念祈祷の霊験はきわめて著しい。