鈴の音に幸せ求め島遍路

慶 春
この度、小豆島霊場会会長を拝命いたしました。数十年前、二期会長を務め、永年霊場会と係わって参りましたが、恒例で再び重責を担うことに相成りました。誠に微力ではありますが、皆様のご協力を頂きながら努力して参りますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
 今、世界は新型コロナ感染が増加し続けています。小豆島も霊場巡拝者が減少、皆さまお参りしたくても出来ない不安と悩みに戸惑いを感じておられる事と思います。
 これまで、霊場は人と人との関係、集い、祈りの遍路行の中で思いを共感してきました。過去の歴史においても、苦難にある人々をお救いし、幾多の困難を乗り越えてきました。
 そこで、令和五年に迎えます『弘法大師生誕1250年』の記念事業を、表題のキャッチフレーズ ”鈴の音に幸せ求め島遍路” のもと、各種行事を計画しています。
 とりわけ、通常の各行事に部会を設け、寺院住職・副住職一丸となり霊場発展に邁進する所存であります。
 先日、朝早くにお遍路さんが参拝され、お経の後、小言でブツブツ祈っています。
 「南無つるかめ、つるかめ」と呟いています。おまじないです。昔の人は自分の力でどうしようもない、例えば戦争、疫病、難病などには、おまじないを唱えていました。「ちちんぷいぷい」もおまじないの言葉です。
 そのお遍路さんは60代。ご主人を亡くされたようです。夫婦揃って元気な時はいいが、一方がなくなると支えを失ってしまいます。何十年二人で支えあってきて、一人になってしまう。人間は支えが必要です。人は縁により結ばれ、縁尽きれば「愛別離苦」のさみしさが起こります。
 丁寧にご本尊に合掌し、そのお遍路さんは『同行二人』と書いた傘と杖、そして鈴を鳴らして急ぎ足で過ぎて行きました。
 家族との別れ、自分自身の病、不安と悩みなどを祈り霊場を巡りますと、お大師さんに護られ願いが叶えられる。二人の力だけでなく三にも四にも五にもなり、生かされていくのです。
 翻って、表題の ”鈴の音に・・・” は、まさに『同行二人』なのです。鈴の音、菅笠、金剛杖はすべてお大師さんなのです。
 かくて『同行二人』の信仰が白熱し、私達の最大限の努力と祈りにより、大きなお蔭が現れ思いもかけない道が開けてまいります。真言密教は「生きぬく宗教」と言われますが、あらゆる力を生起し、無償に生きるところに大きな安心と喜びが生まれてきます。
 曽て島の各札所に、但馬から巡拝の団体長が奉納された石柱があり、そこには「あな嬉しゆくもかえるも留まるもわれは大師と二人づれなり」と詠まれています。
 一先ず年が改まっても、まだ気分一新とはいかない、コロナ終息は五里霧中の感が色濃く残っています。このような無常な折に、願わくは小豆島霊場の特別行事『写経・写仏』を幾ばくかでも御家族、団体の皆様で祈りを込め書写・写仏されますことをお勧めいたします。そして、お大師様の導きがありますよう、新しい年に気持ちを切り替えるのも人間の英知ですが、過ぎし日々を心に刻んで「心の鈴」を鳴らしてみてください。
 昨年、皆様とお会い出来なかった心残りが、今年は笑顔で再会できますよう、お祈り申し上げ、新年のご挨拶といたします。
                                 合掌 


                    小豆島霊場会会長
                     保安寺 住職  宮 内 義 澄