四恩への想い

小豆島霊場会副会長  多聞寺 藤本佳鳳
「いわゆる四恩とは、一つには父母、二つには国王(国)、三つには衆生、四つには三宝なり」これは弘法大師様のお言葉です。「四恩」は仏教の言葉として広く使われておりますが、お大師様は「我々が生きていく上で、この4つのことは大切に想いなさい」と改めて仰られております。
一、「父母の恩」
 私は若い人たちに「あなたたちにはご先祖さんは居ますか?」とよく尋ねます。大抵の子たちは「います」と答えますが、中には「いません」と答える子が居ます。「おいおい君たちはどうやって生まれて来たんだい?」と問い返し、自身の父母、祖父母と代々自分には先祖が必ずいることを伝えます。つまり「父母の恩」とは「先祖の恩」今自分が何故、どうやってこの世に生命をいただいているのか?それを考えると、凡その人は「感謝の念」が湧いてくると思います。そして、その恩に報いるのは自分が、そして子孫が幸せに生きていくことであります。
二、「国王の恩」
 私たちは今「日本」という国で過ごしております。そして日々この国でこの土地で暮らしております。「国」に対して皆様も感謝すること、また反対に不満に思うこともあるでしょう。しかし、現実私たちはこの「日本」という国で過ごしております。そして今上天皇は私たちの安寧を毎日祈ってくださっております。私たちも「日本国」を大切に思い、人々が安心して暮らせるように祈りましょう。
三、「衆生の恩」
 「衆生」とは自分を含め家族親戚友人知人、はたまた赤の他人まで。つまり有縁無縁すべての人のことを言います。私たちは意識せずとも、日々の生活の中で、様々な人たちのお世話になっております。今、皆さんがお読みになっているこの新聞も、原稿を作る人、印刷をする人、それを皆さんの手元に届ける人などなど。萬人の力が加わっております。
 人は決して独りでは生きて行けません。生まれるときも、生きている間も、そして命尽きてこの世を去る時も、去ってからも・・・ 以前私は、齢九十を有に越された、とあるご老僧にこんな話を聞いたことがあります。「人は年老いると頑固になって、人の言うことを聞かん。なんでも独りでできると思っとる。そやけどな、長いこと引導渡してきたけれど、自分で棺桶入った人は居らんかったわ。はっはっは」と・・・
四、「三宝の恩」
 「三宝」とは「仏・法・僧」を言います。「仏」とは「仏さま(お大師様)」「法」とは「仏さま(お大師様)の教え」「僧」とは「その教えを衆生に伝える僧分(先達)」であります。私たちは日頃から仏を拝み、その教えを読経し、そしてその教えを学びます。人生幸せだけではありませんが、それでも平穏だと思えることは「三宝」のおかげであります。
 「恩」とは「おかげ」。近頃私たちの忘れがちな「おかげさま」という感謝の気持ちを常に持ち「ありがとう」と掌を合わしながら、にこやかにお過ごしください。「身(合掌)・口(ありがとう)・意(感謝の気持ち)」これが真言密教の「三密」です。(遍照175号より抜粋)